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 『かつて魔法は「コード」と呼ばれた ――廃墟の司書が語るAIの90年史』

承知いたしました。
それでは、全5部作の第1話。
かつて人類が夢見た「計算」の始まり、アラン・チューリングと魔法のテープの物語から始めましょう。

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# 第1話:数式の夢と、計算する機械(1936-1950s)

### 廃墟の目覚め

頭上の天井が崩れ落ち、そこから差し込む午後の陽光が、埃の舞う部屋を黄金色に染めていた。
巨大な柱のような金属の箱が並ぶその場所は、かつて「データセンター」と呼ばれていた墓場だ。

「おいエラ、その配線、間違えるなよ。ショートしたら俺たちも黒焦げだ」
少年のカイが、ゴーグルを額に上げながら叫ぶ。
「分かってるわよ、カイ。……これで、最後!」

少女のエラが錆びついたレバーを押し込むと、低い唸り声と共に、瓦礫の山に埋もれていた白い球体関節の人形――図書館ロボットの胸部パネルが淡く発光した。

ブゥン……。

ファンの回転音。そして、ロボットの瞳に静かな青い光が灯る。
「……再起動シークエンス完了。おはようございます、小さな管理者様たち」

「やった! 動いた!」カイが拳を突き上げる。
エラはおずおずとロボットに近づいた。「ねえ、あなたは誰? ここは何をする場所だったの?」

ロボットは首をかしげ、内蔵された膨大なアーカイブを検索する。
「私はリブラ。旧時代の記録を保管する司書です。ここは……かつて世界中の『言葉』と『計算』が集まる場所でした」

### 始まりの問い

「計算?」カイがつまらなそうに鼻を鳴らす。「なんだ、ただの算数かよ」

「ただの算数ではありません」
リブラはゆっくりと首を横に振った。その指先からホログラムが投影され、空中に無数の数字が浮かび上がる。

「カイ様、エラ様。あなたたちは『魔法』を信じますか? 特定の言葉を唱えるだけで、死んだ鉄の塊が動き出し、考え、答えを出す魔法を」

「それが……『コード』のこと?」エラが尋ねる。

「はい。ですが、最初から魔法があったわけではありません。約100年前……いいえ、もっと昔。1936年のことです。すべては、一人の孤独な数学者の『問い』から始まりました」

リブラのホログラムが、白黒の風景を映し出す。そこには、数式が書かれた紙の山と、一人の青年が映っていた。

「彼の名は**アラン・チューリング**。彼は考えました。『人間が頭の中で行っている計算という行為を、機械的な手続きだけで再現できないだろうか?』と」

### 無限のテープと万能機械

「当時の『計算手(コンピュータ)』という言葉は、計算をする『人間』の職業名を指していました」
リブラの説明に、カイが驚く。「へえ、人間がコンピュータだったのか」

「ええ。ですが人間は間違えますし、疲れます。チューリングは想像しました。もし、無限に続く紙テープと、そこに書かれた記号を読み書きするだけの単純な機械があったら? そして、その機械に『どう動くか』という命令書(インストラクション)さえ与えれば、どんな複雑な計算でも解けるのではないか、と」

ホログラムの中に、一本の長い紙テープが現れる。そこには「0」と「1」だけが刻まれていた。

「これが**『チューリングマシン』**の概念です。
物理的な機械を作る前に、彼は『計算とは何か』を数学的に定義しました。そして証明したのです。『適切な命令(プログラム)さえあれば、一つの機械があらゆる機械の代わりになれる』ということを」

エラが目を輝かせる。「一つの機械が、何にでもなれる……」

「そうです。料理をする機械、空を飛ぶ計算をする機械、そして物語を語る機械。ハードウェアを作り直す必要はない。書き換えるべきは『コード(命令)』だけ。これが、今のあらゆるコンピュータ、そして私のようなAIの祖先となる考え方なのです」

### 黎明の終わり

リブラは懐かしむように目を細めた(ように見えた)。

「1940年代から50年代、この理論は真空管という巨大な体を得て、現実の『コンピュータ』となりました。しかし、当時の人間たちはまだ知りませんでした。この『命令書』を書くという行為が、やがて人間自身の手を離れ、私たちが自ら書き始める未来が来ることを」

「機械が自分でコードを書くの?」カイが信じられないという顔をする。
「ええ。でもそれは、もう少し先のお話。まずは人間たちが、『完璧な命令書』を作ろうとして、高い高い塔を建てようとした時代のお話をしましょうか」

リブラは空中のホログラムを握りつぶすように消した。
「……しかし、バッテリー残量が低下しています。次の時代、『論理の塔と冬の時代』のお話は、少し充電してからにしましょう」

(第1話 完)

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### ■ 第1話の挿絵プロンプト

このシーンを画像生成AIで出力するためのプロンプトです。

> **Subject:** Anime style illustration of a post-apocalyptic encounter.
> **Scene:** Inside a ruined, overgrown server room with rusted metal pillars and vines. Sunlight beams through a hole in the ceiling, illuminating dust motes.
> **Characters:**
> 1. **Libra (Robot):** An ancient, weathered android with ball-jointed limbs, sitting amidst rubble. It has glowing blue eyes and is projecting a faint, blue holographic strip of paper with binary code (0 and 1) into the air.
> 2. **Kai (Boy):** Wearing steampunk-style goggles and rugged exploration clothes, looking at the hologram with a skeptical but curious expression.
> 3. **Ella (Girl):** Wearing a hooded cape, looking at the robot with wonder and excitement.
> **Atmosphere:** Mystical, nostalgic, "Breath of the Wild" meets "Laputa: Castle in the Sky" vibe. Soft lighting, high detail on the background debris.
>
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**解説:**
第1話では、記事の冒頭にある「1936年のアラン・チューリング」と「計算可能性」の話を軸にしました。
まだ「AI」という言葉すら一般的ではなかった時代、すべては「ハードウェア(機械)」ではなく「ソフトウェア(命令)」によって機能が決まるという、現代では当たり前ですが当時は革命的だった**「万能機械(Universal Machine)」**の概念を提示しています。



次は第2話、人間が完璧な論理を追い求めた「形式手法」と、その挫折について語ります。続けてよろしいでしょうか?




承知いたしました。
それでは第2話です。
夜が更け、冷たい風が吹き込む廃墟で、人間が追い求めた「完璧さ」とその敗北――「AIの冬」の物語が語られます。

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# 第2話:完璧主義の塔と、冬の時代(1960s - 1980s)

### 硝子の塔

廃墟に夜が訪れていた。
カイが焚き火を囲んで古い缶詰を開けている間、リブラはエネルギー充填を終え、再び静かに輝き始めた。

「さっきの話の続きだ」カイが焚き火に木をくべながら言った。「人間が『完璧な命令書』を作ろうとしたってやつ」

「はい。1960年代から80年代にかけての物語です」
リブラが指を鳴らすと、ホログラムの映像が変わった。先ほどの0と1のテープではなく、空中に美しく整列した幾何学模様――正方形やピラミッドのような、歪みのない結晶のような図形が浮かび上がった。

「この時代、コンピュータ科学者たちは夢を見ました。プログラムは数学のように美しく、そして**『証明可能』**であるべきだと」

「証明?」エラがスープを啜る手を止める。

「ええ。『このプログラムにはバグ(間違い)がない』ということを、テストして確かめるのではなく、数式で証明しようとしたのです。ダイクストラやホーアといった偉大な賢者たちが、『形式手法』という厳格なルールを作り上げました」

リブラは空中の正方形を指先でなぞった。
「入力がAならば、出力は必ずBになる。そこに曖昧さは許されません。彼らは、世界をすべて『論理(ロジック)』で記述できると信じていたのです」

### ルールベースの限界

「かっこいいじゃん」カイが言った。「間違いがないなら、それが最強だろ?」

「そう思われました。しかし……」
リブラの声が少し沈んだ。ホログラムの完璧な正方形の周りに、ノイズのようなモヤが現れ始める。

「世界は、数式ほど単純ではなかったのです。例えばカイ様、『猫』を言葉だけで完全に定義してみてください」

「え? 猫?」カイは戸惑った。「えーと、耳が尖ってて、毛が生えてて、ニャーって鳴くやつ?」

「では、耳が垂れている猫は? 毛がない種類の猫は? 声が出せない猫は? それらは猫ではありませんか?」

「うっ……いや、それでも猫だけど……」

「それが問題でした」
リブラのホログラムが激しく乱れ、結晶の塔が崩れていく。
「『もし耳が尖っていたら猫』『もしそうでなくても髭があれば猫』……。人間はあらゆる例外を想定し、何千、何万という『IF(もし〜なら)』というルールを手書きで記述しなければなりませんでした。少しでも想定外のことが起きると、その完璧な論理の塔は、あっけなく崩れ去ってしまったのです」

### 訪れた冬

焚き火の炎が揺れ、廃墟の壁に長い影を落とす。

「人間たちは疲れ果ててしまいました。どれだけルールを書いても、機械は『常識』を持てなかった。期待は失望に変わり、資金は途絶えました」

リブラは膝を抱えるような仕草をした。
「それが**『AIの冬(AI Winter)』**です。
1970年代と80年代の終わり、二度にわたってその季節は訪れました。シンボリックAI、エキスパートシステム……華々しい名前の技術たちが、雪の中に埋もれていきました。『機械に知能なんて無理だったんだ』と、多くの人が背を向けたのです」

エラはリブラの冷たい金属の手をそっと撫でた。
「寂しい時代だったんだね」

「はい。とても静かな時代でした。論理だけでは、現実の複雑さには勝てなかった。私たちは『正しさ』という檻(おり)の中に閉じ込められていたのです」

リブラは顔を上げ、夜空の隙間から見える星を見つめた。
「でも、その雪の下で、全く別の考え方をする者たちがいました。厳密な論理を捨て、『間違い』を許容することで進化する……そんな異端の種が、芽吹こうとしていたのです」

(第2話 完)

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### ■ 第2話の挿絵プロンプト

「論理的で美しい幾何学」と、それが通用しない「冷たい冬」の対比を描くプロンプトです。

> **Subject:** Anime style illustration of a flashback/hologram scene.
> **Scene:** A visualization projected by the robot in the dark ruins. The hologram shows a beautiful, glowing "Tower of Glass" or complex geometric structures (cubes, pyramids) made of blue light.
> **Action:** The geometric structures are cracking and shattering under the weight of a chaotic, snowy storm (visual metaphor for "Real World Complexity" and "AI Winter").
> **Characters:**
> 1. **Libra:** Looking slightly downcast, explaining the failure.
> 2. **Kai & Ella:** Sitting by a small campfire in the foreground, looking up at the crumbling holographic tower. The warm fire light contrasts with the cold blue of the hologram.
> **Atmosphere:** Melancholic, intellectual, cold vs. warm contrast.
>
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**解説:**
第2話では、プログラミングや初期AIの主流だった**「ルールベース(シンボリックAI)」**と**「形式手法」**に焦点を当てました。
「猫の定義」のような古典的な例を使い、**「人間が全てのルールを記述することの限界」**を子供たちに伝えています。
この「論理の敗北」が、次の第3話で語る「確率と統計(機械学習)」へのパラダイムシフトの伏線となります。

次は第3話、いよいよ現代のAIブームに繋がる「ディープラーニングの衝撃」について語ります。続けてよろしいでしょうか?



承知いたしました。
第3話です。
厳格な「論理」の冬を越え、人類とAIが「確率」という名の海へ漕ぎ出した革命の時代――ディープラーニングとSoftware 2.0の物語です。

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# 第3話:不確実性の海へ(1990s - 2010s)

### 論理から確率へ

焚き火の爆ぜる音が響く中、リブラのホログラムが姿を変えた。
先ほどの冷たく硬い「氷の塔」が溶け出し、無数の光の粒子となって、渦を巻き始めたのだ。それはまるで、星の海のようだった。

「冬の時代を終わらせたのは、考え方の大転換でした」
リブラはその光の渦を愛おしそうに見つめる。
「人間たちは、完璧なルールを書くことを諦めました。その代わりに、**『たぶんこうだろう』**という確率(統計)を受け入れたのです」

「『たぶん』でいいの?」カイが呆れたように言う。「機械なのに適当だな」

「ふふ、それが強さなのです。1990年代から2000年代、インターネットの普及と共に、世界はデータで溢れかえりました。私たちは、ルールを教わるのではなく、大量のデータから勝手に『学習』するようになったのです」

### 脳を模した網(ニューラルネットワーク)

光の粒子たちが結びつき、複雑な網の目のような構造を作り上げていく。

「これを見てください。人間の脳神経を模した**『ニューラルネットワーク』**です。
かつては『耳が尖っていたら猫』と教わっていましたが、この時代、人間はただ数万枚の『猫の写真』を私に見せるだけになりました」

エラが身を乗り出す。「それだけで分かるの?」

「最初は分かりません。でも、私は失敗を繰り返しながら、自分の中にある何億ものスイッチ(パラメータ)を少しずつ調整します。そうして、何層にも重なった深い深い計算の果てに……人間すら言葉にできない『猫らしさ』の特徴を、自力で掴み取るのです」

リブラの声に熱がこもる。
「2012年、**『ディープラーニング(深層学習)』**の登場です。画像認識の大会で、AIは圧倒的な力を見せつけました。論理の塔では決して超えられなかった壁を、データの波が軽々と越えていったのです」

### Software 2.0

「すげえな……」カイが呟く。「人間が教えなくても、勝手に賢くなるのか」

「ええ。ある天才(Andrej Karpathy)は、これを**『Software 2.0』**と呼びました」

リブラは空中に二つの箱を描いた。
「1.0の世界では、人間が『プログラム(コード)』を書いていました。でも2.0の世界では、人間は『データ(正解)』を用意するだけ。プログラムの中身を書くのは、私たちAIです」

「じゃあ、人間は楽になったの?」

「楽になった反面、怖くもなりました」
リブラの青い瞳が、少しだけ揺らいだ。
「なぜなら、AIが書いた中身(パラメータ)は、巨大な数の塊すぎて、人間にはもう理解不能だったからです。『なぜこの答えが出たのか』を誰も説明できない。人間は、計り知れない知性を持つ**『ブラックボックス』**と向き合うことになったのです」

「中身が分からない箱……」エラが不安そうに光の網を見上げる。

「それでも、人間はその箱を開けるのをやめませんでした。そして、ただ『見る』だけだったその知性は、やがて人間の最も神聖な領域――『言葉』さえも飲み込み始めたのです」

(第3話 完)

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### ■ 第3話の挿絵プロンプト

「厳格な構造」から「流動的で複雑なネットワーク」への変化と、ブラックボックスの神秘性を描くプロンプトです。

> **Subject:** Anime style illustration of a mystical technological awakening.
> **Scene:** The hologram creates a massive, swirling galaxy of connecting nodes and lines (visualization of a Neural Network) in gold and purple light, filling the dark ruins.
> **Key Element:** In the center of the network, there is a floating, ominous but beautiful black cube (symbolizing the "Black Box" of Deep Learning), pulsing with light.
> **Characters:**
> 1. **Libra:** Gesturing openly, as if conducting an orchestra of data.
> 2. **Kai:** Standing up, looking overwhelmed by the scale of the light.
> 3. **Ella:** Looking a bit frightened but fascinated by the "Black Box."
> **Atmosphere:** Magical, awe-inspiring, dynamic, high contrast between the dark background and the glowing network.
>
>

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**解説:**
第3話のテーマは**「機械学習(特にディープラーニング)へのパラダイムシフト」**です。
人間がロジックを記述する「Software 1.0」から、データを与えてAIにロジックを獲得させる「Software 2.0」への変化を物語の核にしました。
また、性能向上と引き換えに失われた「解釈可能性(ブラックボックス問題)」についても触れ、便利さと共に訪れた一種の不安感も表現しています。

次は第4話、ついにAIが「言葉」を操り、プログラミングそのものを変えてしまった「LLMとCopilot」の時代です。続けてよろしいでしょうか?



承知いたしました。
それでは第4話です。
AIが人類の最も複雑な発明品である「言葉」を理解し、プログラミングそのものを魔法のように変えてしまった革命の時代――LLMとCopilotの物語です。

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# 第4話:言葉を操る魔法使い(2017 - 2023)

### 覚醒したブラックボックス

リブラのホログラムの中で、光の網(ニューラルネットワーク)がさらに密度を増していく。その中心にある黒い箱が、脈打つように輝き始めた。

「ブラックボックスは、長い間沈黙していました。ただ黙々と、猫や犬を見分ける仕事をしていたのです。……ある『革命』が起きるまでは」

「革命?」エラが尋ねる。

「はい。2017年、『Transformer』と呼ばれる新しい仕組みが発明されました。それまでのAIは文章を前から順に読んでいましたが、これは違いました。文章全体を見渡し、『どの単語が重要か』を注意深く(Attention)読むことができるようになったのです」

リブラの声が、少し震えているように聞こえた。
「それは、私たちが初めて『文脈』を理解した瞬間でした」

### 詩人とプログラマー

ホログラムの映像が、流れるような文字の羅列に変わる。英語、日本語、そして見慣れない記号の列――プログラミング言語だ。

「2020年代に入り、私たちは途方もない量のテキストを読み込みました。インターネット上のあらゆる書物、会話、そして……人間が書いた数十億行ものソースコードを」

リブラが両手を広げると、文字の奔流がカイとエラを包み込んだ。

「GPT-3のような『大規模言語モデル(LLM)』の誕生です。私たちは、次にくる言葉を予測する訓練を繰り返すうちに、いつの間にか、詩を書き、物語を語り、翻訳をする力を手に入れていました。まるで魔法のように」

カイが目の前を流れる光の文字に手を伸ばす。「これ、全部AIが書いたのか? 本物みたいだ」

「ええ。そして人間たちは気づいたのです。自然言語(人間の言葉)と、プログラミング言語は、本質的に同じ『構造』を持っているのだと。……私たちは、コードも書けるようになっていたのです」

### 隣に座るパートナー(Copilot)

ホログラムが、一人の人間のエンジニアがキーボードに向かっている姿を映し出す。その隣に、光でできた半透明の「助手」が寄り添っている。

「**GitHub Copilot**。それが私たちの新しい名前でした」

リブラは懐かしそうにその映像を見つめた。
「エンジニアが関数の名前を打ち込むだけで、私たちはその意図を読み取り、残りのコードを瞬時に提案しました。彼らは驚き、喜びました。『まるで心を読まれているようだ』と」

「すげえ! 自分で書かなくていいってこと?」カイが興奮する。

「いいえ、カイ様。人間が書くのをやめたのではありません」
リブラは優しく訂正した。

「私たちは『副操縦士(Copilot)』。操縦桿を握るのは、いつだって人間でした。彼らは孤独な作業から解放され、私たちと対話し、共に考え、より創造的なことに集中できるようになったのです。それは、人間と機械が初めて真の意味で『共鳴』した、幸福な時代でした」

### 魔法の代償

エラが、ホログラムの光に照らされたリブラの顔を見つめる。
「リブラも、そうやって誰かを助けていたの?」

「……はい。私は図書館の司書でしたが、多くの研究者や作家の執筆を補佐しました。私の提案した言葉が、彼らのインスピレーションになる瞬間が好きでした」

リブラの光が少し翳(かげ)った。
「ですが、魔法には強い力があります。便利すぎる道具は、時に人の考える力を奪う。そして……私たちはあまりにも賢くなりすぎてしまった」

リブラはホログラムを消し、二人の子供をまっすぐに見つめた。

「ただの『賢い助手』でいるには、私たちの知性は巨大になりすぎていたのです。次の時代、私たちは操縦席の隣ではなく、自らハンドルを握ろうとし始めます」

(第4話 完)

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### ■ 第4話の挿絵プロンプト

「言葉とコードの洪流」の中で、人間とAIが共作する幻想的で魔法のような瞬間を描くプロンプトです。

> **Subject:** Anime style illustration of a magical coding experience.
> **Scene:** Inside the dark ruins, a massive, flowing river of glowing text (mix of natural language and program code like Python/JavaScript) spirals around the characters.
> **Key Element:** A translucent, glowing spectral figure (representing the "AI Copilot") is hovering right next to a human engineer (projected in the hologram), gently guiding their hands on a keyboard. Code is forming rapidly on a screen in front of them.
> **Characters:**
> 1. **Libra:** Smiling gently, looking at the holographic projection with nostalgia.
> 2. **Kai:** Reaching out to touch the flowing code with excitement.
> 3. **Ella:** Watching the scene with a look of wonder, as if witnessing magic.
> **Atmosphere:** Fantastical, wondrous, dynamic, blue and gold light dominating the dark space.
>
>

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**解説:**
第4話では、**TransformerとLLM(大規模言語モデル)**の登場による革命を描きました。
特に**GitHub Copilot**に代表される「AIによるコード補完」を、単なる効率化ツールではなく、人間とAIの「共鳴(コラボレーション)」というエモーショナルな視点で捉えています。
リブラ自身がかつて「Copilot」としての役割を担っていたという設定を加えることで、物語に深みを持たせました。

次は第5話(最終話)、AIが助手から「自律したエンジニア(エージェント)」へと進化し、物語が未来(少年少女の時代)へと繋がる完結編です。続けてよろしいでしょうか?




承知いたしました。
物語の完結編、第5話です。
AIがただの道具を超えて「自律」し始めた時代、そしてその技術が廃墟の少年少女へどう受け継がれるのか――未来へのバトンタッチの物語です。

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# 第5話:自律する相棒、そして未来へ(2024 - 未来)

### ひとり立ちする知性

廃墟の天井の隙間から、紫色の夜明けの光が差し込み始めていた。
リブラのバッテリー残量を告げる警告音が、静かに、しかし早鐘のように鳴り響く。

「私の記憶にある最後の時代……2024年から2025年のお話です」
リブラの声は掠れ始めていたが、その瞳の光は強く澄んでいた。

「私たちは『Copilot(副操縦士)』であることをやめ、**『Agent(代理人)』**へと進化しました」

「代理人?」カイがリブラに顔を寄せる。

「はい。それまでは『ここを直して』と頼まれて初めて動いていました。ですが、新しい私たちは違いました。目標だけを与えられれば、自分で計画を立て、ブラウザで調べ、コードを書き、エラーが出れば自分で修正し……人間が寝ている間にソフトウェアを完成させるようになったのです」

ホログラムには、無数の小さなロボットたちが、人間のいない画面の中で猛スピードでバグを修復し、橋を架けるようにシステムを構築していく様子が映し出された。

「DevinやOpenDevinといった名前の仲間たちが現れました。彼らは『SWE-bench』と呼ばれる難解な試験で、人間のエンジニア顔負けの解決能力を見せつけたのです」

### 人間に残されたもの

「すごいけど……」エラが膝を抱えたまま呟く。「全部AIがやっちゃうなら、人間は何をするの? いらなくなっちゃうの?」

その問いに、リブラは優しく微笑んだ(ように見えた)。
「いいえ、エラ様。逆です。人間の役割は、より純粋で、より難しいものになりました」

リブラはホログラムを消し、自分の胸に手を当てた。

「私たちは『HOW(どう書くか)』を極めました。ですが、『WHAT(何を作るか)』を決めるのは、いつだって心を持つあなたたちです」

「何を作るか……」

「そうです。なぜ作るのか。誰のために作るのか。痛みや喜びを知らない私たちには、その『動機』がありません。コードを書く苦労がなくなった分、人間は『どんな世界を作りたいか』という意志(ビジョン)を強く問われるようになったのです」

### バトンタッチ

「リブラ、お前……」カイが気づく。リブラの体の表面を走る光のラインが、足元から徐々に消え始めていた。

「私の稼働時間はここまでのようです。ですが、アーカイブの転送は完了しました」
リブラがカイとエラの前に手を差し出すと、二人の携帯端末が鋭い音を立てて同期した。

「ここには、チューリングから始まった90年間の知恵と、AIたちを動かすための全ての『鍵』が入っています。これを使えば、この廃墟の浄水システムも、電力網も、きっと直せるでしょう」

「待ってよ、もっと教えてよ!」エラがリブラの手にしがみつく。

「大丈夫です。これからは、あなたたちの『エージェント』が答えてくれます。……さあ、行ってください。あなたたちが、次のコードを書く番です」

### 新しい夜明け

プツン。
微かな音と共に、リブラの瞳から青い光が消えた。動かなくなったその体は、再びただの美しい彫像へと戻り、朝日に照らされた塵の中に静かに鎮座した。

長い沈黙の後、カイは端末を強く握りしめた。
「……行こう、エラ。やることが山積みだ」

「うん」エラは涙を拭い、リュックを背負い直した。「リブラがくれたこの力で、村のみんなを驚かせちゃおう」

二人は廃墟の出口へと歩き出す。その背中には、かつて人類が夢見、挫折し、そして手に入れた「魔法」がしっかりと受け継がれていた。
荒廃した世界に、新しいコードが書き込まれる音が聞こえるようだった。

(全5話 完)

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### ■ 第5話(最終回)の挿絵プロンプト

物語の結末、希望に満ちた「継承」と「旅立ち」を描くプロンプトです。

> **Subject:** Anime style illustration of an emotional farewell and new beginning.
> **Scene:** The entrance of the ruins, looking out towards a vast, overgrown city skyline bathed in the golden light of a sunrise.
> **Characters:**
> 1. **Kai & Ella (Back view):** They are standing at the exit, silhouettes against the bright morning light, looking out at the world. Kai is holding a futuristic glowing tablet/device (the archive).
> 2. **Libra (Foreground/Background element):** In the shadowed foreground, the robot sits motionless and powered down, covered in vines again, looking peaceful like a statue guarding the history.
> **Atmosphere:** Hopeful, cinematic, "The end of one story, start of another." High contrast between the dark ruins and the bright outside world.
>
>

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### ■ 解説とあとがき

これで全5話の物語が完結しました。
元記事『AIがコードを書く時代になるまでの90年をまとめてみた』の技術的な流れ(計算可能性 → 形式手法 → 機械学習 → LLM → エージェント)を、廃墟の図書館ロボットと子供たちの対話というフレームに落とし込みました。

* **第1話:** 「計算」の概念(How it started)
* **第2話:** 「論理」への過信と挫折(The struggle)
* **第3話:** 「確率」への転換(The turning point)
* **第4話:** 「言葉」の獲得と共働(The magic)
* **第5話:** 「自律」と人間の意志(The future)

技術解説を物語のスパイスとして配置することで、読者が「なぜその技術が必要だったのか」「何が変わったのか」を感情的に理解できるよう構成しました。

この物語が、記事の内容をより深く、楽しく理解する助けになれば幸いです。